東京高等裁判所 昭和28年(う)1418号 判決
被告人 川崎正毅
〔抄 録〕
論旨第一点に対して。
原判示の犯罪事実の中、窃盗場所の町名、丁目或は番地(原判示第一(一)、第四(三)、第五(三一)、(三二)、)盗品の色或は時価(同第一(二)、第五(五)(一〇)、(一三))、被害者の名(同第五(一))の表示において起訴状記載のものと若干相違しているものがあることは夫々所論の通りであるが、その中原判示第一(一)、(二)、(一一)、第四(三)、第五(一)、(五)、(一〇)、(一三)、における相違は起訴状の明らかな誤記か或は一見容易に両者が同一犯罪場所、同一被害物件又は同一被害者を示すものと認めることができる程度の極めて軽微な表示の不一致にすぎない。また原判示第五(三一)の犯罪場所については、起訴状表示の中野区新井町六六二番地は被害者鈴木緑郎の住居であつて原判示の中野区打越町二五番地は同人の店舗であることが同人作成の被害届によつて明らかであり、いづれも靴商鈴木緑郎方と表示しており、原判示第五(三二)の犯罪場所については、起訴状の渋谷区神宮通りと原判示の渋谷区上通り三丁目六〇番地とは近接していていづれも丸喜百貨店徳田三能留方とあつて、夫々同一場所における犯罪であると推認することができる。従つて所論の右表示の各相違は未だ起訴状記載の犯罪事実と原判示の犯罪事実との同一性を害するものではなく、また本件の訴因に何等影響を及ぼすものでもない。而して検察官が起訴状記載の前記犯罪事実の証拠として提出し被告人及び原審弁護人が証拠とすることに同意した所論の各書証が本件事犯認定の資料として証拠能力を有することは勿論であつて、之を原審公判廷で適法な証拠調をしたことは原審公判調書の記載によつて明かであるから、右の各書証や、起訴状記載の前記犯罪事実を自認する旨の被告人の原審公判廷における供述を原判示事実認定の証拠にすることは毫も違法ではない。而して原判決挙示の各関係証拠によると、原判示の各事実を認めるに十分であつて、所論に徴し記録を精査するも、所論の様な検察官の起訴しない事実を証拠能力のない証拠によつて認定した違法もなく、また事実誤認も存しない。論旨は理由がない。